M女の隠れ家                                          <コラム−4>


「見えない首輪」

SMではS男性とM女性は「ご主人様と奴隷」という関係になりますが、この関係は普通の恋人同士という関係とは大きく違っています。
普段一緒に食事をしたりおしゃべりをしている時は、普通の恋人同士とそんなに違いはないんですけど、一旦調教の中に入るとその関係は一変します。
そこには主従関係があり、絶対的な上下関係が存在します。
ご主人様は奴隷の精神的な面も肉体的な面も全てを所有することになり、奴隷に服従を求めます。
もしご主人様からの命令に従えない場合は、それ相応の罰、お仕置きをうけなければなりません。

ご主人様は奴隷を所有しているのであり、奴隷はご主人様に所有されているのです。
恋人同士のような同列の関係ではなく、絶対的な上下関係になります。

その上下関係を象徴する道具が、首輪です。
ご主人様から首輪を付けられた瞬間に、M女性はご主人様の所有物となるのです。
首輪とは逃げられなくするための道具であるばかりでなく、その持ち主、所有者を特定するための印でもあります。
もし子犬が迷子になっても首輪があれば、持ち主を探し出して届けることができるように。



その日の調教が終わり首輪を外しても、実は目に見えない首輪がM奴隷の首にはしっかりと付いたままなのです。
この「見えない首輪」は、ご主人様が外さない限り誰にも外すことのできないものです。
「見えない首輪」の存在はM女性には自覚できると思います。
自分の首に付いていてご主人様がそのリードの端を握っている「見えない首輪」を・・・。
その首輪が付いていることを自覚することによって、M女性は安心し心の平和を保つこともできるのです。

でもそんな幸せな関係も、いつか終わりがきます。
別れの時です。
その時、ご主人様は奴隷の首に付いている「見えない首輪」を外します。

その「見えない首輪」を外す時、僕の心の中では「ガシャン」という何とも言えない寂しくて悲しい音が聞こえます。
心の一部が壊れる音です。
これまでに何度もこの音を聞いてきました。
この音を聞くたびに、僕の心が壊れていきます。

そしてご主人様から首輪を外されたM女性は、「野良」になります。
野良犬、野良猫の「野良」です。
ご主人様を失ったM女性は野良となって荒野をさ迷い歩きます。
心の支えを失い所有してくれる人を失って保護してくれる人をなくし、行くあてをなくします。

街に野良犬狩りの者がいるように、SMの世界にもそんな野良を目当てにしている輩がいます。
普通の野良犬は人間に対して強い警戒心を持っていますので、簡単には野良犬狩りに捕まりませんが、人間に飼われていたことのある野良犬は、飼い主が優しい人であればあるほど人間に対する警戒心が薄く、簡単に野良犬狩りに捕まってしまいます。
SMの世界で野良になったM女性は、荒野をさ迷い新たなご主人様を知らず知らずのうちに求めているために、簡単に野良犬狩りに捕まってしまうのです。

彼らは本当のご主人様ではありません。

そんな者に捕まってしまったM女性の悲劇を何度も耳にしています、また実際に僕から離れていったM女性が悲劇にあったことを知っています。

ずっと以前に僕の奴隷になっていたM女性がいました。
僕の奴隷として何度か調教を受け、奴隷の喜びを味わっていましたが、その当時、僕は他にも奴隷がいました。
そのM女性は他の奴隷に激しく嫉妬し、自ら僕の奴隷でいることを拒んだのです。

ある日、僕に打ち明けました。
新しいご主人様ができたと。

聞けばネットの掲示板にカキコミのあった男性と数回のメールの経て、今度実際に会って調教してもらうのだといいました。
それで僕と別れたい、そんな話です。
僕はやむなくそのM女性の首に付いている「見えない首輪」を外しました。
あの悲しくて寂しい音とともに。



それから半年ほど経ったある日、その女性からメールが届きました。
新しいご主人様はS男性ではなく、ただ単に女性の体だけが目当ての男だったと。
その男性と一緒にホテルに行くと、そこには数人の見知らぬ男がおり、縄で乱暴に縛られて犯されたと。
その男たちが縄で縛るのは女性が抵抗できなくするためだけのもので、その縛りは痛くて苦しくて、それまでに僕から受けていた縛りとはまるで別ものだった。
そして抵抗しようとしたり声を上げたりすると、容赦なく鞭でぶたれた。
その男が振るう鞭は僕の鞭とは違って、とても痛くてまるで心が砕けるようだった。
ただ早く男たちのセックスが終わって欲しいと願う苦痛の時間を過ごした、早くこのホテルから出たいと。

その後、男は彼女の勤務先や自宅までやってきたりして関係を求めた。
数回そんなことがあり、彼女は妊娠しさらに性病にかかってしまった。
今は仕事先を変わりその男から逃れて、治療のために通院しているという内容のメールでした。

僕はそのメールを読んで、心が張り裂けるような思いでした。
でも僕にはもうどうしてあげることもできません。
一旦外された「見えない首輪」はもう元には戻らないのです。
彼女を助けてあげられなかった深い後悔とともに、僕はそのメールを閉じました。
返信することなく・・・。

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